設備投資で銀行が見る数字
設備投資は、融資を申し込むタイミングの中でも“審査が最も慎重になる場面”です。
理由は明確で、
- 投資額が大きい
- 回収期間が長い
- 経営に与える影響が大きい
銀行からすればリスクが高いため、提出された数字・計画を非常に細かくチェックします。
ここでは、元金融機関職員の視点から、銀行が実際に見ているポイントを整理し、設備投資の融資を通しやすくするための具体的な対策をまとめます。
銀行が設備投資の審査で注目するメイン指標
1. 投資回収期間(何年で回収できるか)
設備投資の審査で最も重要な数字です。
銀行が注目する点:
- 何年で投資額を回収できるのか
- 回収期間が返済期間より短いか
- 回収根拠となる売上・粗利の見積が妥当か
- 過去の実績と比較して不自然ではないか
多くの経営者が見落としますが、銀行は「回収期間>返済期間」の案件を極度に嫌います。
例:
設備投資1,000万円
→ 年間の追加粗利300万円なら回収期間3.3年
→ 返済期間5年なら問題なし
これが基本的な見方です。
2. 投資によって増える粗利の根拠
設備投資は“売上”ではなく“粗利”で説明する必要があります。
銀行が見るポイント:
- 投資による新規売上
- 時間短縮・効率化による粗利増加
- 廃棄削減・外注費削減などのコスト減
- 利益改善が数字で説明されているか
銀行は「売上が増える」だけでは絶対に納得しません。
粗利の増加根拠がないと、判断材料が不十分になります。
3. 現在の返済負担率(返済比率)
既存借入の返済額が大きすぎる企業は、設備投資が通りづらくなります。
見られる指標:
- 年間返済額 ÷ 営業キャッシュフロー
- 返済負担が重くなりすぎないか
- 設備投資をしても返済に十分耐えられるか
特に返済負担率30%を超える企業は、設備投資の融資審査が厳しくなる傾向があります。
4. 手元資金と自己資本の比率
設備投資は会社の資金を大きく減らすため、銀行は必ず手元資金を確認します。
チェックされる点:
- 設備投資後の残資金がどの程度か
- 3ヶ月分の固定費が確保できているか
- 自己資本比率が大きく下がらないか
「全額借入でいきたい」という相談は多いですが、銀行の本音としては自己負担1〜3割があると一気に通りやすいです。
5. 外注費・人件費の構造変化
設備投資には必ず「費用の変化」が伴います。
銀行はその内訳も見ています。
- 外注費をどれだけ内製化できるか
- 人件費が増えるのか減るのか
- 稼働率がどれくらい改善するのか
- 生産量・作業時間がどれくらい変わるか
これらが数字で示されていると、審査は大きく前進します。
銀行が重視する補助資料
提出すると効果的な資料リスト
- 投資前後の損益予測
- 投資後のキャッシュフロー計画
- 稼働率や作業時間の改善データ
- 主要顧客の注文予定・見込み
- 見積書(分解見積があると良い)
- 投資理由の整理メモ
- 既存設備と新設備の比較資料
特に、投資前後の損益予測+キャッシュフロー計画は、
設備投資の融資審査で非常に強力な資料になります。
審査を大きく左右する“銀行の本音”
銀行は「設備投資=経営判断の質」を試している
設備投資は、会社がどこに向かおうとしているのかが明確に表れます。
銀行が見るポイント:
- 投資の目的が整理されているか
- 投資に対して、数字で説明できるか
- 想定リスクに対する対策があるか
- 投資額に対して企業規模が無理していないか
このあたりがしっかりしている企業の案件は、担当者が本部に上げやすいため通りやすいです。
設備投資を通しやすくするための実務ポイント
1. 投資目的を1文で説明できるようにする
曖昧な目的は強いマイナス材料です。
例:
「既存商品の生産効率を30%向上させ、外注費を年間200万円削減するため」
こういった明確さが求められます。
2. 投資後の粗利改善を“具体的な数字”で示す
粗利改善の説明例:
- 生産時間が◯%短縮
- 月産量が◯個増加
- 外注費が年間◯円削減
- 廃棄率が◯%改善
数字があれば銀行は安心します。
3. キャッシュフローを作って提出する
銀行が安心する資料ランキング1位です。
- 投資額
- 返済額
- 毎月の現金残高推移
これが明確であれば、審査は格段にスムーズに進みます。
4. 自己資金を一部入れる(1〜3割)
これは非常に効果的です。
- 銀行「本気度が高い」
- 内部稟議が通りやすい
- 回収リスクが下がる
と見られやすいため、実務上は大きなプラスになります。
5. 投資後のシナリオを複数描く
銀行は“最悪ケース”も知りたいと考えています。
- 売上が想定の70%だった場合
- 外注費削減が一部しか実現しなかった場合
- 稼働率が計画より低い場合
これらのリスク説明があると、審査は確実に進みます。
設備投資の審査は「数字」と「説明力」で決まる
設備投資は経営の転換点になる重要な判断です。
銀行は、感覚的な計画では絶対に融資を出しません。
ポイントは次の通りです。
- 回収期間が返済期間より短いか
- 粗利改善の根拠が数字で説明できるか
- 手元資金が残るか
- キャッシュフローで返済を説明できるか
これらが揃えば、設備投資の融資は通りやすくなります。
逆にいえば、“数字と資料が弱い設備投資は通らない”というのが銀行の本音です。
