粗利率が低い事業の融資戦略
粗利率が低い事業は、銀行から「返済力が弱い」と見られやすく、同じ売上規模でも粗利率が高い事業に比べ、融資の難易度が上がる傾向があります。
しかし、粗利率が低い業種でも、正しい見せ方と戦略を取れば、金融機関の評価を十分に高めることが可能です。
本記事では、元金融機関の立場から、粗利率が低い事業がどのように融資を通しやすくすべきか、実務的な観点から解説します。
粗利率が低い事業は「薄利多売型」とみなされる
金融機関は、粗利率の低さを以下のように判断しがちです。
- 売上の変動に弱い
- 経費が増えた瞬間に赤字化する
- キャッシュが貯まりにくい
- 値下げ競争に巻き込まれるリスクが高い
つまり「返済原資が安定しづらい」という印象を持たれやすく、同じ売上規模でも評価が伸びにくい特徴があります。
しかしこれはあくまで一般論であり、粗利率が低くても
“安定性・継続性・規模拡大の見込み” を数値で示せる企業は、融資が通りやすい
というのが金融機関の実情です。
融資審査で最も重視されるのは「粗利率」ではなく「返済可能性」
融資審査は粗利率だけで決まるのではなく、次の3つの要素の掛け合わせで判断されます。
- 経常利益(営業利益+営業外)
- 減価償却費
- 実質的な税金・役員報酬の妥当性
粗利率が低くても、
・利益を残せている
・キャッシュフローが安定している
・コスト構造が明確
であれば、返済可能性は十分にあると評価されます。
粗利率が低い事業こそ「粗利額の積み上げ」を示す
金融機関はパーセントよりも粗利額の絶対値を重視します。
例えば、
- 粗利率30%で粗利100万円
- 粗利率10%で粗利300万円
であれば、後者の方が返済力があると判断されます。
粗利率が低い企業の融資戦略は、
粗利“率”ではなく粗利“額”を説明すること
が最も効果的です。
重要なのは「売上の安定性」と「継続取引」
粗利率が低い業種は、企業間取引や継続契約の割合が高い傾向があります。ここを強みに変えます。
金融機関が評価しやすいポイントは以下の通りです。
- 長期契約・年間契約がある
- 売上の8割以上が固定取引先
- 売上推移が緩やかで安定している
- 解約率が低い
これらは粗利率の低さを補う大きな材料になるため、事業計画書では必ず図や表で可視化します。
コスト構造を明確化すると融資は通りやすくなる
粗利率が低い事業は、金融機関から「どこまでが仕入原価か分かりにくい」と思われることがあります。
そのため、以下を明確に提示するだけで評価が改善します。
- 仕入原価の構成
- 売上に応じて変動する費用
- 変動費率と固定費率
- 値上げ・値下げが利益に与える影響
コスト構造が把握できている企業は、金融機関から「管理能力が高い」と判断され、与信が安定します。
融資を通しやすくするための実務的なアプローチ
1. 売上総利益(粗利額)の将来予測を示す
売上の伸びがそのまま粗利額の伸びに直結するため、粗利率の低さを補う説得力があります。
2. 値上げ余地・価格調整戦略を説明する
「薄利多売で限界」という印象を払拭できます。
例:
- 業務効率化で人件費率が下がる
- 仕入条件改善の交渉予定
- 新商品・新サービスで粗利率が上がる余地
3. キャッシュフローの安定を数値で示す
粗利率が低い企業の強みは、売上規模が安定することです。
入金サイト・支払サイトを明示すると、銀行の不安が大幅に減ります。
4. 運転資金の根拠を明確に説明する
粗利率の低い企業は運転資金を多く必要とします。
「なぜこの金額の運転資金が必要なのか」を数字で示すと、融資が通りやすくなります。
・売掛金回収サイト
・在庫回転日数
・買掛金支払サイト
これらを整理し、根拠を添えて説明することが重要です。
粗利率が低い事業に向く融資の種類
- 運転資金(短期・長期)
- 売掛金ファクタリング(銀行系の保証付き)
- 設備投資資金(効率化目的が評価されやすい)
- 政府系金融機関の融資(日本政策金融公庫など)
特に政策金融公庫は、粗利率の低い業種にも比較的柔軟に対応してくれます。
金融機関が“評価しやすい”ポイントをまとめる
粗利率が低くても、次の項目が揃っていれば融資は十分に可能です。
- 粗利額が安定して積み上がっている
- 取引先の継続性が高い
- 入出金の流れが安定
- 運転資金の根拠が明確
- コスト管理ができている
- 将来の利益改善計画が具体的
銀行は「安定して返済できるか」を見ているため、粗利率の低さだけで判断することはありません。
銀行に対する事業計画について、詳しくは以下の記事もご参照ください。
「失敗しない事業計画書の書き方|補助金・融資に通りやすいポイント」
「事業計画書はどこまで細かく書くべき?融資担当者が実際に見ているポイント」
まとめ
粗利率が低い事業ほど、融資戦略では「粗利率ではなく粗利額」「安定性」「管理能力」の3つを重点的に示すことが重要です。
正しい見せ方をすれば、粗利率の低さは大きなマイナスにならず、むしろ“安定性が高い業種”として評価されることもあります。
